片岡球子 （かたおか たまこ）

片岡球子 ― 革新をもたらした日本画家の軌跡
片岡球子（かたおか たまこ、1905年1月5日〜2008年1月16日）は、北海道札幌市に生まれ、日本画の世界に新たな地平を切り開いた画家です。明治から平成にかけて100年以上の人生を生き抜き、その間に確立した力強く個性的な画風は、日本美術史に燦然と輝く存在となっています。

学びと挑戦の青春時代
片岡は北海道庁立札幌高等女学校師範科を卒業後、東京の女子美術専門学校（現在の女子美術大学）に進学し、日本画を学びました。卒業後は横浜市の大岡尋常高等小学校で教員として勤務しながら、画家としての道を模索します。

その道のりは決して順風満帆ではありませんでした。帝展（現在の日展）に何度も挑戦しながらも落選が続き、「落選の神様」とまで呼ばれた時期もありました。しかし1930年、第17回院展に「枇杷」が初入選を果たし、以後は日本美術院で活躍を続けました。

教育者としての功績
1955年、長年勤めた小学校を退職した片岡は、母校・女子美術大学に戻り講師として教壇に立ちます。その後、助教授、教授へと昇進し、1966年には愛知県立芸術大学の日本画科主任教授に就任。教育者としても多くの後進を育て、日本画の発展に大きく貢献しました。

独自の表現世界 ― 面構と富士山
片岡の代表作として知られるのが、「面構（つらがまえ）」シリーズと「富士山」シリーズです。「面構」では、空海、葛飾北斎、雪舟など歴史上の人物の内面を、力強く、時に大胆な色彩と構図で表現しました。このシリーズは1966年から2004年までの間に44点が制作され、片岡の画業の核心をなすものといえるでしょう。

一方、「富士山」シリーズは60歳を前に始まったもので、鮮やかな色彩と構築的な構図で富士山の霊性や力強さを描き出しました。その斬新な視点と表現は、多くの人々を魅了し、今も高く評価されています。

晩年と栄誉
片岡は80歳を過ぎても筆を取り続け、創作への情熱を絶やしませんでした。1982年には日本芸術院会員に、1986年には文化功労者に選ばれ、1989年には女性画家としては稀な文化勲章を受章。上村松園、小倉遊亀に次ぐ、三人目の女性受章者となりました。

2008年、103歳でその生涯を閉じるまで現役を貫き、まさに芸術とともに生きた人生を体現しました。

永遠に輝く画業
片岡球子の作品は、北海道立近代美術館や札幌芸術の森美術館などに所蔵され、今なお多くの人々に感動と刺激を与え続けています。日本画という伝統を土台としながらも、常に革新を求めた彼女の生き方と作品は、後世への大きな遺産といえるでしょう。